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第3 依頼する際に念頭におくこと

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第3 依頼する際に念頭におくこと

補償金請求を弁護士に依頼しようと思う時、依頼する時、依頼した時に、頭にとどめていただきたいことをこの機会に整理しておきます。

1 経験が豊富かどうかは大きな問題ではない。

その弁護士さんが交通事故に詳しいことは重要なポイントではありません。詳しい方が詳しくないよりはよいという程度の話です。交通事故の賠償法学は決してやさしい学問ではありませんが、交通事故事件の処理は、何か特別の法律知識と弁護経験がなければできないというようなものではありません。一生懸命こつこつ追求してくれる弁護士がいちばんよい弁護士です。

交通事故に詳しいことを売り物にしている法律事務所が、「高位等級専門」というような宣伝文句を使っているのをみて、どうして重い後遺障害の事件しか扱わないのかと思ったことがあります。被害者ご本人にとってはご自身の事故が最大の難事で、等級が高い低いかは問題ではありません。高位等級障害事件の多くは高額賠償請求事件です。何を訴えたかったのかよくわかりませんが、弁護士側の都合を優先させているような印象を受け、あまりよい感じがしませんでした。

2 弁護士の辛口の言葉には重みがある。

トラブルのど真ん中に投げ込まれた当事者は、ともすれば判断が偏り、どうしても主観的になりがちです。こういう事故だったと決めつける傾向もときにあり、その主張を支える根拠などには関心がないというような対応をされる方もいます。しかし、相手を説得するにはその主張を証明する証拠が必要です。

弁護士は被害者の言い分を証明する客観的な資料はあるかということに関心を寄せています。「あなたがその時かくかくしかじかの状況であったことを示す根拠は何か」とか「その程度の材料では裁判所は納得しない」とか、厳しい言葉を投げかけるかも知れません。それは、何とか相手を圧倒するデータがほしいという思いに発する戦陣の言葉です。
訴訟も交渉もその実体は「闘い」です。闘いは味方の陣地を固めなければ勝てません。そのためには厳しい試練が当然あります。

3 有利・不利な事情にこだわる。

事故状況や被害状況に関して、この事情は補償請求を有利に運ぶ材料になるのではないかと思うことを探し出し、弁護士にきちんと伝えることが大切です。弁護士は、法律の専門家ですが、「事実」の専門家ではありません。事実は、ご依頼者である被害者から聞いてはじめて知ります。弁護士の活動を支えるのは被害者のあなたです。

不利な情報も弁護士にはきちんと伝えなければいけません。弁護士が相手方から被害者の不利な情報を伝えられて、対応に苦労することがあります。不利に思えることもすべてきちんと把握し、その中から活路を見いだすのも弁護士の仕事です。

4 いとわず訴訟に持ち込もう。

弁護士に事件処理を依頼した方がよいというお勧めは、場合によっては訴訟提起も辞さず挑戦しようというお勧めにつながります。

弁護士にとっては、交渉が不調に終われば訴訟を提起するという「次なる手段」を持っているかいないかが、交渉を力強く進める上で大きく違います。被害者に訴訟提起も躊躇しない姿勢があれば、弁護士の交渉もねばり強く展開でき、結果的に好ましい結論で妥結もします。

一方、被害者が何としても訴訟はやりたくないと思っていると、弁護士の交渉も弱気になりがちで、結論もあまり好ましくない水準で終わることになりかねません。

訴訟提起は被害者として当然の権利を行使するものですから、本来他に憚るような性質の行動ではありません。以前は、親戚一同から、「裁判なんか絶対にやめろ、一族の恥だ」とか「欲をかいて弁護士に頼むな」などと言われて、泣く泣く断念したなどという話しがよく聞かれました。私自身、「親戚からそう言われて動きがとれない」と訴えられた経験があります。最近はそういう話もあまり聞かなくなりましたが、それでも「裁判沙汰」という言葉は死語ではありません。弁護士に事件を依頼するには今でも相当の覚悟がいるでしょう。

最大の懸念は見通しの有無でしょう。それについてはすでに詳しくお話ししました。少なくとも交通事故の賠償請求訴訟は、一般の訴訟とは少し違い、交渉という係争手段と訴訟という係争手段の間にあまり大きな「争いの段差」がありません。交渉の延長上に訴訟があると考えても差し支えないと私は思います。

5 弁護士費用をきちんと確認する。

弁護士によって違いもあり、弁護士費用の話は、少し聞いた程度ではよく理解ができないのが普通です。とかく費用の話は尋ねにくく、わかりにくい。弁護士に事件処理を依頼するのは生まれて初めてという被害者が少なくありませんから、費用の話がよくわからないというのは当然のことです。詳しく尋ねてはいけないということは少しもありません。後にトラブルや不信に発展しないように、弁護士費用については必ず正確に理解しておきましょう。

ご理解いただきたいのは、弁護士側にしても、その事件の弁護士費用をきちんと説明するのは、実はとても難しいということです。事件は「生き物」で、これからの展開にはずいぶん幅があるために、弁護士費用を確定的に言うことが何とも憚られるという問題があります。それはそれで致し方のないことです。

弁護士費用は、ご依頼者の立場からも弁護士の立場からも悩ましい永遠のテーマですが、だからと言って避けて通ると、後に予想外の混乱が発生しかねません。平生からきちんと理解しあい、弁護士とご依頼者の間に十分な意思疎通をしておくに超したことはありません。

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