2009年6月の道交法改正
改正道交法と改正道交法施行令の施行(2009年6月1日)により、行政処分が大幅に強化されました。これまでは、呼気1リットル中に0.25mg以上のアルコールを保有した場合の点数は13点、0.25mg未満の場合の点数は6点で、前歴がなければどちらも免許の停止で済みましたが、改正で0.25mg以上なら25点で欠格期間2年の取り消し、0.25mg未満0.15mg以上で13点、他の違反を伴うとさらに高い点数が付くことになりました。
また、アルコールの影響で正常な運転ができないおそれがある状態(いわゆる「酒酔い運転」)の場合、35点が付き欠格期間3年の取り消しです。これまでも25点で取り消し処分でしたが、欠格期間が2年から3年に引き上げられました。
改正点がまことに広範囲におよぶ今回の改正ですが、強いて改正のポイントを挙げれば、以下のようになるでしょう。
□「欠格期間の引き上げ」「酒気帯び運転等の点数引き上げ」
第1は、「悪質・危険運転者」に対する欠格期間の引き上げです。これまで免許取り消し時の欠格期間(再免許取得禁止期間)は5年でしたが、後記の「悪質・危険運転行為」におよんだ者の欠格期間を3年以上10年以下の範囲で指定できることになりました。
第2は、酒気帯び運転等の法定刑が従来の酒酔い運転等と同等に引き上げられたのに伴い、改正令により基礎点数を引き上げました。呼気中アルコール濃度0.15mg/リットル以上0.25mg/リットル未満の酒気帯び運転は6点(前歴0なら停止30日)から13点(停止90日)になり、0.25mg/リットル以上の酒気帯びは13点(停止90日)から25点(取り消し2年)になっています。
このほか、酒酔い運転等の重大違反そそのかし等の欠格期間が2年から3年に引き上げられ、従来停止処分にしかならなかった救護義務違反のそそのかし等の欠格期間が3年になりました。□「悪質・危険行為」「特定違反行為」
①自動車等の運転により故意に人を死傷させたり建物を壊すこと、②運転致死傷罪にあたる行為をすること、③酒酔い運転等をすること、④救護義務違反をすること、⑤道路外致死傷で故意によるものや危険運転致死傷罪にあたる行為をすることを「悪質・危険行為」といいます。
このうち①~④を「特定違反行為」と言い、点数制度の対象とします。種別と基礎点数は政令に規定され、欠格期間が10年を上限に指定されることになります。この場合、運転殺人等、運転傷害等、危険運転致死傷については基礎点数が決められており事故時の付加点数は付きませんが、酒酔い運転については従来どおり、付加点数を付けることになります。
また、先にもご紹介したとおり、これまで付加点数とされていた救護義務違反が特定違反行為とされ、独立の処分理由になりました。□「一般違反行為」
従来の違反行為から酒酔い運転等を除いたものを「一般違反行為」といいます。5年の欠格期間を上限として、取り消しや停止の処分が行われます。意見聴取に関して付言します。飲酒条項違反のケースの意見聴取は極めて厳しく、対象のケースの処分をゆるめることはまったくと言ってもよいほどありません。これは、今回の改正施行以前からの公安委員会の基本姿勢です。
参考文献などのご紹介
私の話はこれで終わりです。ご自身のケースにジャストミートする説明だったでしょうか、それともぴったり当てはまらないお話だったでしょうか。後者であれば残念ですが、そういうことも十分考えられます。行政処分の説明を実際に即してくまなく説明するのは、実はとても大変です。具体的なケースのバリエーションが多すぎるのです。まずは行政処分の考え方の基本を把握していただき、ご自身のケースについて考える基礎的な力を養っていただきたいと思います。
今回の法改正はかなり大きなものでした。私の理解が混乱している所もきっとあるでしょう。ご指摘を受けて直していきます。叱咤激励(?)をよろしくお願いします。
最後に、もう少し詳しく知りたいという方のために、参考文献などをご紹介します。
私は、かつて、『速度違反取締りへの挑戦』(1981年。芸文社刊)を出したことがありますが、版元絶版になっています。図書館にでも行かなければ見られないでしょう。
警察系と非警察系の本をご紹介します。当局刊行のテキストに、『点数制度の実務 五訂版』(運転免許研究会編 啓正社刊)があります。処分担当者を対象に点数制度のしくみや内容を解説した実務の手引き書で、一般の読者にはやや専門的すぎるかもしれません。当然(?)ながら建前しか書かれていません。また、五訂版は今回の改正前に刊行されたものです。
一般向けの本としては、『なんでこれが交通違反なの!? 警察は教えない126の基礎知識』(今井亮一著 草思社刊)があります。現場の声や行政処分の周辺の諸問題にも触れている好著です。
行政処分と点数制度に関する警察発一般向けのもっとも簡便な情報は、「警視庁」と「行政処分」をキーワードにして、インターネットで調べられます(2009年6月現在)。各道府県の警察はどこもほぼ同じ考え方・やり方で実施しているので、各地の警察が行っている行政処分に関する基本的な知識(細かな実務知識)が得られます。
了(2009年7月10日記)
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