2.警察の実況見分と事情聴取
現場の見分
さて、各論です。初めに、警察の実況見分と事情聴取について説明します。事故状況を明確にする作業が捜査の出発点です。実況見分は捜査官が事故の実情を記録するものです。事故の直後に行われる現場状況の実況見分のほかに、車両の見分、関係者の現場説明を記録する見分、被害者の負傷状況を記録する見分などと、いろいろあります。
あなた自身が医療機関に搬送されていなければ、たいてい実況見分に立ち会うことを求められます。あなたが現場にいなければ、とりあえず加害者(被疑者)を立ち会わせて行い、後日、あなたが立ち会う実況見分を行うことがあります。現場の見分調書が複数作られることになります。また、路上の痕跡や散乱物の実情などの状況は、立会人不在のままでも行われます。
この説明をご覧になっているあなたの場合、実況見分はもう終わっているかも知れません。でも、ここに書かれていることが基本だと知れば、あのときどうしてあのような見分をしたのかとか、どうしてこういう見分をしなかったのかなどと、見分状況についてあらためて意見を言うきっかけになるでしょう。また、事情聴取がまだなら、その際に実況見分の問題点を指摘することも可能になります。実況見分を見直す契機にして下さい。
正確な実況見分をさせる
事故状況を正確に再現するのは大変です。スリップ痕の位置や地上散乱物の位置を確定する作業も厳密に行わなければなりません。車両の損傷の箇所や状況についても同じことが言えます。関係者の指示や説明を正確に記録するのは実況見分の核心とも言うべき大切な作業です。
当事者の言い分が食い違うこともあります。人が異なり、見る位置が異なり、注意力も異なり、立場も異なるのですから、それは当然です。しかし、警察はその「ずれ」をいやがります。警察は自身の経験を時に過信し、素人の言葉を時に軽視します。強引に警察が考える結論に導こうとすることも少なくありません。ちょっとした差が大きな判断の分かれの原因になることもあるので、正確な記録を求めるように最大限努力し、わからないことはわからないと言うことが大切です。
事情聴取に注意を払う
事故後にあなたの事情聴取が行われます。あなたが病院に運ばれたとか、すぐに事情聴取を受けられる状態ではない場合には、後日行うことになります。目撃者などの関係者の聴き取りを行うこともあります。
警察官は、手書きのメモや交通事故現場見取図などを前に置いてあなたから実情を聞き、その場で調書を作成してゆきます。調書作成が終わると読み聞かされ、間違いがあれば修正され、印鑑を押させられ、印鑑を持っていなければ指印を押させられます。これで被害者の参考人調書が完成します。
この調書は、今後の捜査や裁判で、経過を知ったり被害者が事件や加害者をどう受けとめているかを判断したりする資料になります。後日、あなたが加害者を相手に起こす損害賠償請求訴訟などの場で利用されることもあります。後々大きな影響を及ぼす資料ですので、慎重に対処する必要があります。
言えることだけを言う
警察官は、事故状況などについても、事実はこうだったはずだと決めつけることがあります。素人のあなたは黙っていろと言わんばかりの強引な警察官もいます。あなたは「事故のプロ」ではありませんから、断定的に言われるとそういうものかなと一歩退いてしまいがちです。警察官の言う事故状況とは違うとか、警察官の説明はよくわからないなどと言うと、怒り出す警察官もいます。
しかし、自身の印象を率直に言うことが大切です。ぼんやり対応していると、あなたが経験した事実ではなく警察官が想定する事実を書かれかねません。勝手に書かれたのでそのことを指摘したら、「さきほどは…と言いましたが、実は…です。」などと、一旦はそのように言ったかのような「訂正記述」に整理されたという経験を聞いたこともあります。調書の信用性にも関わりますので、間違った書き方をさせないようにはじめから注意深く対応しましょう。
警察は、加害者に対するあなたの心境を尋ねるのが普通です。重い処罰を求めたいと思っているか、そうではないかというようなことです。被害者の思いは加害者の刑事責任を決める要素の一つになります。簡単にその時の気分で言ってしまわないようによく考えて臨みましょう。
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