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裁判員制度はコロナで廃止に至る

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裁判員制度はコロナで廃止に至る

寄稿 「裁判員制度はいらない!大運動」呼びかけ人 高山俊吉

 新型コロナ危機で、裁判員制度はいよいよ終焉の時を迎えた。今年3月以降、裁判員裁判の期日取消しや新期日の決定延期が相次ぎ、5月末までほとんどの裁判員裁判が開かれなくなった。その数は50件を超える。裁判はイベントとは異なり中止はない。テレワークもない。従って公判期日の先延ばしは判決期日の大幅な遅れを意味する。年内に期日が入るかどうかという大幅延期事件も出てきて、拘束されている被告人の迅速な裁判を受ける権利(憲法37条)は危殆に瀕している。

凋落の出頭率史

制度の危機を示すのは裁判員の不出頭激増である。実は出頭率はこの問少し持ち直していたのだが、昨年から今年初めにかけあらためて大きく減少した(昨年23.5%、今年1~2月20,6%)。おそらく昨秋以来の消費増税不況がその要因であった。
出頭率20.6%について説明する。制度発足の2009年は40.3%だった出頭率が11年間でほぼ半分に落ち込んだ。ここでいう出頭率は、地裁の裁判体に選ばれた裁判員候補者のうち選任手続期日に実際に出頭した裁判員候補者の割合である。はじめから10人中4人程度と低い数字だったのがさらに激落して当初なら出頭していたであろう者の半分もが今では出ていかなくなったことを示している。

「すっぽかす」闘い

最高裁が発表する出頭率にはもう一種ある。選任期日の日に出席せよと命じられた裁判員候補者のうち実際に出席した者の割合を示す出頭率である。選任期日に出頭を命じられるのは辞退が認められた者を除く候補者だから、この出頭率は、候補者から無資格者(警察官など)であるとか辞退したいとかの申し出がなかったので出頭するだろうと予定(期待)されていた者のうち実際にどれだけが出頭したか(すっぽかしを示す数値になる。この出頭率は当初83.9%だったのが今年2月には64,0%まで下がった。すっぽかした者は当初16.1%だったのが今年2月には36.0%と2.2倍に増えたということである。「正当な理由のない不出頭は10万円以下の過料」という国の命令に国民はますます果敢に抗っている。

コロナが来た!

裁判員候補者の出頭状況がこの惨状を呈していたところに新型コロナが直撃した。東日本大震災の時には、直後に即刻の裁判再開を要求して国民からも現場の司法関係者からも大顰蹙を買った最高裁は、今度は慎重を期し3ケ月の期間をおいて6月からの再開を全国の地裁に指示した。地裁は、法壇や評議室にアクリル板を設けたり、評議室を広げたりしたが、その程度のことで対策になる訳がない。
法廷も評議室も何階にあろうと、すべて地下室のように窓なしの「密室」である。識者はスーパーの滞在時間を短くせよ、なるべく言葉を発するななどと言うが、裁判は時に何時間もかけ言葉を発し、微に入り細を穿って論じ合うものだ。裁判員裁判ほど危険なウイルス感染環境はない。
東京地裁では、早くも裁判長と弁護人の間でマスクの着脱論争が起きた。マスクは人の表情も発する言語も曖昧化させ、意思の疎通を困難にする。感染拡大防止と裁判崩壊回避の二律の背反状況が現出している。公判中心主義と公開原則が求められる裁判は「新しい生活様式」とは最極の果てにある危険作業なのだ。

誰がやりたいと

技術的困難にさらに加わるのが、裁判員裁判に対する本質的な反発意識の高まりである。裁判員裁判のねらいは、「国民に伝統を守り秩序維持の任務を果たす裁判官の崇高な姿を面前で学習させること」であり、加えて「国民にその作業の一端を担わせ、統制する側に立つ者の自覚を持たせること」である。その活動への参加に向けた意欲を天秤の一方に置き、支点の反対側に新型コロナウイルスの感染不安や生活不安を置こう。通常の市民にとってどちらがより大きく重いか。答えは言わずもがなであろう。

動きようがない

さて裁判員裁判への出頭拒否の拡大情勢に最高裁・法務省はどう対処するのか。取りざたされているのは、裁判官裁判か5人制裁判員裁判への移行だ。しかし、前者は被告人が暴力団員である場合など極めて限られた事情があることを要する(裁判員法第二条1項)。後者は公訴事実に争いがなく事件の内容等の事情を考えて適当と認められる場合に限られる(裁判官1人と裁判員4人で行う。同法第二条3項)。だが、制度発足以来この方式に拠った裁判員裁判は1件もない。出頭者激減という「事件の内容等」に関係のない事情はこの制度を採用する根拠にはまったくならない。
崩壊寸前の裁判員裁判のやり方を少しでも変えれば、そのことがきっかけとなって制度は終焉になだれ込みかねない。動かねばならなくても動けない。彼らはまさに進退窮まっている。

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