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結論を出してはならぬ、這っても進め

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結論を出してはならぬ、這っても進め【裁判員制度】

裁判員制度はいらない大運動全国情報2019年9月号

 制度10年を推進派がどのように描いているかを見れば、制度の危機がいかに極限に達しているか、そしてそのことを彼ら自身がよく認識しているかがわかる。

最高裁・法務省は

5月、大谷最高裁長官は、「まだ草創期・通過点。堅実に育てていく。法曹3者が改善策を検討し、協力して作業を」と言った。「結論を出すのは早い、状態は最悪でも歩を進める、日弁連は国策に協力せよ」である。

構想提起18年、法制定15年。べらぼうな国家予算の投入。候補者動員数290万人、選任期日動員数34万人、裁判員(補充を含む)動員数9万人。被告人数1万2000人。結果、「これまでより迅速に行われるようになることが期待され」た裁判(『裁判員法/刑事訴訟法』辻裕教65頁」)が裁判官裁判より長くかかることになり、裁判員候補者出頭率は22.7%(裁判員候補者として選定された者のうち選任期日に出頭した者の割合。2018年)という惨たる数字がたたき出されている。

10周年シンポでは

5月に開催された最高裁・法務省・最高検・日弁連共催「10周年シンポ」で井上正仁法務省特別顧問は、「制度導入後にも根強い反対論があった」と隠せぬ事実に論及し、今崎幸彦最高裁事務総長も「選任手続への出席率等の動向には今後とも注意が必要」「手続の運用には数々の課題」などと奥歯に物が挟まったような表現ながら不安や問題点に論及した。

「やってよかった」か

「おおむね順調」論のほとんど唯一の根拠は、「やってよかったと言う者が経験者の95%を超える」という最高裁発表のアンケート調査である。かねてから客観性・正確性を疑われているデータであるが、「どうしてこのように高い数字が出るのか」という議論がまったく行われないのも不思議なら、「このようなデータがあるのに制度好感論が一向に広がらないのはなぜか」という素朴な疑問にも一切答えないのも論外の不合理である。

日弁連は

日弁連の制度推進派は、それは裁判員に課される守秘義務が厳し過ぎるためだと言う(日弁連機関誌『自由と正義』2019年5月号14頁など)。笑止の駄論である。守秘義務が緩むと「良い経験をした論」が飛び出してくると言える根拠を彼らは何一つ挙げない。彼らは、守秘義務が緩和されないことを見越して無責任な言動に走っているだけなのだ。
悲惨な体験をして心の病に倒れ、国を相手取って損害賠償請求を提起した裁判員経験者も「秘密」を漏らさなかった(漏らせなかった)。もしそれが世間に知られ広がっていたなら制度に反発する世論は激しい勢いで高まっていただろう。守秘義務のおかげで制度に対する嫌悪感はこの程度で済み、真実が知られず10年も生きながらえたのだ。

「やってよかった」がほとんどだと豪語する最高裁に迎合同調する日弁連(「裁判員制度施行10周年を迎えての会長談話」2019年5月)であるが、その最高裁は、「裁判員経験者の意見交換会の結果を見る限り、守秘義務の必要性については裁判員経験者の多くの理解が得られている」と指摘している(「裁判員制度10年の総括報告書」19頁)。日弁連は、裁判員は前者については本心を語り、後者については本心を隠したというつもりか。

『自由と正義』は

日弁連は、最高裁などとの共催企画を打っただけで、10年を記念する独自の行事もなく、弁護士団体としてのきちんとした分析も発表しなかった。国民参加の司法の確立に向けて大きな第一歩を踏み出したという評価に立つのなら、制度10年の軌跡を正確に追い、何が獲得でき何は実現の途上にあり課題は何かについて、批判に耐える評価を明確にする責任があった。しかし、『自由と正義』5月号の特集も会員3人の論考を掲載してお茶を濁しただけで終わった。

論考は、「国民の主体的・実質的参加の実現」には多くの問題があるというもの(守秘義務の緩和などを言う)、「制度の効果」として権力を裁判官から市民に移す努力を強調するもの(具体的にどうしろと言うのだ)、「被告人のための裁判員裁判」をいうもの(制度はそのような目的で導入されていない)である。
上記のシンポでパネリストとして登場した元裁判員は、「裁判員は裁かれる被告人の側に立ってはいけない」と断じた。日弁連の制度推進派は制度の本質をなぜ見ようとしないのか。日弁連が問われているのはまさにそのことである。

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