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駐車取り締まり 安易な「民力」導入見直せ

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駐車取り締まり 安易な「民力」導入見直せ【違反取り締まり】

新方式による駐車違反の取り締まりが始まって間もなく1ヵ月。違法駐車の減少を歓迎する声も聞くが、喜んでいてよいものか。

道路交通法の規定では、制限速度を1キロ超えても違反だし、直ちに運転できない状態にあれば駐車違反が成立する。だがこれまでは、数キロの速度超過や短時間の駐車は取り締まり対象とはならず、それが法の建前と市民常識の距離を取り持つ調整弁の役割を果たしていた。それは人手がないという交通警察の事情を反映した判断でもあった。

新制度の導入で、こうした「慣行」は崩れた。物流業者などから悲鳴が上がり、駐車料金の商品価格への転嫁が論じられている。日常的に車を利用する市民も戸惑い、駐車監視員とのトラブルによる公務執行妨害事件さえ発生している。車の利用者の多くは、車外で用を足すために車に乗る。車を簡単に止められる合理的なスペースが各所に潤沢に用意されていないことが、違法駐車問題の根源だ。公共用地や民間用地を活用し、駐車場づくりに力を注げという各方面の要望に応えず、ただ取り締まりだけを突出させる強権発動的な政策は、市民の不満を蓄積させることだろう。

今回の改正では、違法駐車をした車の持ち主が「放置違反金」を払わされる制度も始まった。持ち主が違反金を支払った場合には、運転手は違反の責任を免れるという「利点」が用意され、実際問題として、警察は持ち主の責任を問えば済むことになったのである。だが、現行法の下では、駐車違反はれっきとした刑事犯罪である。犯罪である以上は、警察が捜査を尽くし、違法駐車をした当人を検挙するのが筋道だ。持ち主処分方式は、安易な手法という批判を免れない。

また、朝日新聞のアンケートによると、回答があった駐車監視の受託法人のうち7割が、警察の再就職先だったという(5月31日付朝刊)。報道は、委託先が天下りの温床になるのでは、という懸念を強く裏付けた。この不透明さを解消しない限り、渋滞解消などと自賛しても、市民の疑念はぬぐえない。

新制度の狙いは、駐車違反の取り締まりに費やされている警察の予算や人員を重大犯罪に振り向けるとともに、民間委託という形で「民力」を導入し、交通警察力を強化することにあるとされる。だが、交通違反という犯罪捜査の一環に、制度的に民間人を組み入れる手法は、法律家として看過できない。それは、捜査の過程で外部の専門家の知恵を借りるのとは意味が違う。

このような外部委託が許されると、速度超過などほかの違反の取り締まりも拡大強化され、一般の刑事犯罪捜査にも同様の方法が用いられかねない。今回の改正の持つ問題点はあまりにも大きく、深い。警察発表の効果論に惑わされず、私たちは警察権力の肥大化を監視し、制度の再検討を始める必要があると思う。

(朝日新聞「私の視点」 2006年6月28日)

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