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危険運転致死傷と飲酒運転抑止を考える

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危険運転致死傷と飲酒運転抑止を考える【交通事故裁判】

今年1月8日、福岡地裁判決は、3児死亡事件の事故原因を「運転者の脇見運転による過失」と認定した。この機会に、危険運転致死傷罪のあり方と飲酒運転による事故の抑止手法をあらためて考えたい。

飲酒による危険運転致死傷は、アルコールの影響のため正常な運転が困難な状態で自動車を走行させて人を死傷させるものである。事故発生時に正常な運転が困難な状態にあることを運転者が認識していなければならない。だが、運転者の認識という「内心の事実」の認定は容易でなく、それを推定させる事実の有無をめぐって争われるケースが多い。保有アルコール量の多さ少なさが犯罪の成否に関わりを持つのは言うまでもない。

危険運転致死傷罪の登場直後約1年間の判決例を見ると、呼気1リットル中の保有アルコール量は0.99mgと0.3mgの間に分布するものの、大半が0.5mg以上で平均は0.652mgである(事例80件。「危険運転致死傷罪の捜査要領」立花書房)。ちなみに、0.5mg以下の特徴は、「顔面紅潮、快活、軽度の血圧上昇が見られるが、人により無症状」であり、分類としては「微酔」とか「軽度酩酊」の段階とされる。

被告人の検知時(事故の50分ほど後)のアルコール保有量は0.25mg。推定される事故時の保有量の少なさなどから、同罪の成立をいぶかる声が当初からあったが、判決はこれを裏付ける形となった。

危険運転致死傷罪の成立とその後の経過はかなり特異である。交通事故で家族を失った遺族らが中心となって進めた厳罰化要請運動をマスコミが後押しし、審議の中では「暴行による傷害・傷害致死に準じる犯罪」と位置づけられた。性急な審議の中でも規定の曖昧さや抽象性が指摘され、2001年の成立時に衆参両院は濫用を戒める付帯決議をつけた。しかし、致傷10年・致死15年の上限法定刑は、04年の刑法改正で15年と20年に引き上げられ、一層の厳罰化への道を進んできていた。

この犯罪は、懸念されたとおり、依然として今日でも被害者、一般市民の双方から十分な理解を得ていない。過失致死傷罪で起訴した検察を厳しく批判する声がある。危険運転致死傷罪の成立要件を満たしていないと主張する弁護人への激しい非難の声もある。慎重な審理に徹しようと努力する裁判所への軟弱批判の声もある。

その背景には、結果が重大であれば飲酒の程度は問わず成立するのだろうとか、運転者が現場から逃げたり犯行の証拠を隠そうとしたりすれば成立するのだろうというような誤解がある。また、拙速な立法や強引な運用に当たらずさわらず対応してきたマスコミの姿勢が、運転者に対する「厳罰要求世論」を支えていることも指摘しないわけにはいかない。

解決策を運転者の意識改革に収斂させる厳罰政策は、安全対策として大きな限界をはらむ。時に殺人の量刑をも超えてしまう量刑バランスの失調も無視できない。事故を防止し被害の拡大を防ぐ確かな交通安全設備を設けるとか、ドライバーの飲酒を感知したらエンジンがかからないようにするなどの「ハード面からの安全対策論」になぜ注意を向けないのか、また向けさせないのか。痛ましい事故の教訓はあまりにも大きく重い。厳罰への納得や緩刑への批判で「一件落着」の気分になっていたのでは、治安強化社会を招来するだけであることを指摘したいのである。

(2008.4.21 書きおろし)

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