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裁判員制度Q&A(08.11.28 J-WAVE「JAM THE WORD」番組内)

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裁判員制度Q&A(08.11.28 J-WAVE「JAM THE WORD」番組内)

以下番組放送内容のテープ起こしから

 竹内薫がお送りしております。次は「CUTTING EDGE」のコーナーです。
来年5月にスタートする裁判員制度に向け、今日、裁判員候補者名簿に載った方に「あなたは選ばれる可能性があります」という通知が発送されました。早ければ明日にも、あなたのお宅のポストに最高裁判所から封筒が届くかもしれません。
ところがですね、通知が届いたその瞬間から、その方は法律によって、ある義務を背負うことになるそうです。勝手に選ばれた上に法律の縛りを受けるとは、どういうことでしょうか。
ということで、今夜は、様々な問題が指摘されている裁判員制度について、講談社出版の『裁判員制度はいらない』の著者で弁護士の高山俊吉さんに電話をつないでお話を伺います。

竹内:
もしもし。

高山:
はい。
竹内:

高山さんでしょうか。

高山:
はい、そうです。
竹内:

JAM THE WORLDの竹内と申します。よろしくお願いします。

高山:
はい、よろしくお願いします。
竹内:

早速なんですが、明日にでも届くかもしれない最高裁の通知ですが、これが届くとどんな法律の縛りを受けるのですか。

高山:
候補者になったということで受ける縛りはですね、自分が候補者になったということを人に言ってはいけないということです。
竹内:

はぁ~、それは誰にも言っちゃいけないということなんですか。

高山:
例外がありましてね。法律の規定はないんですけれども、最高裁によれば、「上司とか、配偶者とか、親しい人にはよろしい」と言われていますから、それ以外はダメと。

竹内:
ということは、例えば、インターネットでブログに書いちゃダメと。
高山:
それはもう全然、いけないですね。
竹内:

あぁそうですか。でも、罰則はないんですね。

高山:
罰則はありませんが、今のところはないというだけで、罰則が出てくる可能性はあります。
竹内:

そうですか。例えば、断りたい人は断れるんですか。

高山:
断れないです。
竹内:

断れないんですか。

高山:
これは、通知と言うんですけれど、「あなたは載ってしまいましたよ」という知らせで、「外してくれ」とは言えない構造になっています。

竹内:
そうなんですか。「黙っていろ」ということ以外には、どんな義務があるんですか。

高山:
実際に裁判員制度が動き出すのは、来年5月21日以降なんですけれども、具体的な事件毎にですね、「あなたは裁判所に来てくれ」という通知が来ます。
竹内:

ほぉ~、なるほど。

高山:
それまではですね、今、お話した「知らせてはいけない」というその縛りだけなんですが(えぇ)、そこから先はもう縛りだらけになります。
竹内:

ほぉ~、そうなんですか。

高山:
実際に呼び出されますと、そのときに質問票というのが送られてきて(質問票、はい)、いろいろ聞かれるんですね。その事件と関係がないかとか(ほぉ~)。このときにウソのことを書くと(ははぁ)、それは処罰の対象になって(はぁ~)、虚偽のことを書くと50万円以下の罰金とか(ほぉ~)、そういうウソを言ってはいけないぞという縛りがかかります(なるほど)。そして、今度は裁判所に行きます(えぇ)。そこで、また質問を受けます(はい)。そのときにウソをつくと、また処罰の対象になります(ほぉ~)。つまり、自分自身のすべてをさらけ出すというか(はい)、正直に言いなさいよという一種の身体検査を受けるんです。
竹内:

そうですね。身体検査ですね。

高山:
そういう感じになりますね。裁判が始まりますと(はい)、今度はそこで、いろいろな事実を知ることになります。
竹内:

そうですね、はい。

高山:
法廷は公開されていますから(はい)、そこでは知ったことは話していいことになりますが(はい)、その後、みんなで論議を始める。これを評議と言いますが(評議)、そこで聞いたことは、感想程度ならいいけれど、内容を言うことは一切禁止です。
竹内:

感想はいいけど、内容はいかんと。

高山:
とてもよい体験をした。どんな体験か。それは言えない(あ~、はは~)。とても酷い体験をした。どんな体験か。それは言えないと、こういう態度を貫かなければならない。
竹内:

えっ、じゃあ、実際、裁判員になった後、ブログに「自分が裁判員をやった」と書くのは構わないんですか。

高山:
「やった」と書くのは構いません。けれども、今、お話したようなことは言えない。
竹内:

なかなか、秘密を守るのは難しそうですね。

高山:
夫婦の間でも言ってはいけない。「墓場まで持って行け」と言われていますので(はは~)。落ち込んでで気が滅入っても、なぜなのか言えない。聞けば言わせることになりますから聞けない。大変な秘密を夫婦の間、家庭の中で持つことになります。
竹内:

通常、そういうことは全部、プロの方がやる訳ですよね。

高山:
そうですね。

竹内:
今回、例えば、死刑になってしまうような重大な案件でも、一般人にその裁判員になれというんですか。

高山:
そのとおりです。
竹内:

無理があるんじゃないですか。

高山:
非常に無理がある。世界に類例がない。先進国では、一般に死刑が廃止されているということもありますけれども、死刑が存置されている国でも、死刑判決に一般市民が関わって、死刑にするかしないかを議論する国というのはほとんど聞いたことがない。

竹内:
アメリカはどうなんですか。

高山:
アメリカでは、被告人が無罪か有罪かを判定するだけで(あっ、なるほど)、有罪となった場合の量刑は、裁判官が決めることになっています。
竹内:

今回の日本の制度は量刑まで決めるんですね。

高山:
そのとおりです。
竹内:

例えばですが、素人に裁かれるのは、被告人には不利益になりはしませんか。

高山:
なると思いますね。その社会、その時代の一種の気分でですね、バッシングというんでしょうか(えぇ)。一種の人民裁判的な論議に走ることだってあり得ます。そういうことが起こりやすい時代だという風に、今の時代状況を考えると(えぇ)、私は思いますね。

竹内:
裁判員制度の導入に伴って公判期間の短縮のために導入された公判前整理手続には問題はないですか。

高山:
大いにあります。最高裁は、7割の事件は3日で終えてしまう(3日)、9割の事件は(はい)5日で終えてしまうと言っています。こんな短い期間でどうしてできるのかというと(はい)、大半の事務処理を事前に密室の中で(えぇ)、プロの法律家だけでやってしまう。最後の法廷、一種、セレモニーのようになってしまうところに(はいはい)市民を登場させるという、私に言わせると一種の「お飾り」に引っ張り込む形になるんです(ほぉ~)。それで初めて、3日や5日の裁判が可能になるんです。

竹内:
今、「お飾り」とおっしゃいましたね。そもそも、どうしてこんな制度が導入されることになったんですか。

高山:
基本的に市民を裁判所に連れて行って、そこで裁判を体験させる(はい)。裁判官の真似をさせる。私は、真似さえできないだろうと思っているのですが、真似事をさせる(はい)。そうして、世の中の秩序とか、世の中の治安は自分で守るんだという思いを一人ひとりの市民に植え付けたい(ほぉ~)、みんなが自分たちの社会は自分たちが守っていくんだというものの考え方を(えぇ)きちんと持つような市民に変わっていってもらいたいと(あっ、なるほど)、そういう考えです。
竹内:

なんというか、社会の道徳みたいなものを変えようというんですね。

高山:
おっしゃるとおりです。社会の道徳、倫理、道義というんですかね。世の中をみんなで守っていくと考える市民、日頃から教育だのしつけだのということを中心に考える市民にみんなで変わっていこうと。

竹内:
一番問題とされるのが、多数決の方法ですが、裁判員が6人とプロの裁判官が3人ですね。

高山:
そのとおりです。

竹内:
その多数決ですが、多数派の中にはプロの裁判官が1人いないといけないということですね。

高山:
そうです。
竹内:

ただ実際、裁判官というのはプロですから、大体、3人とも意見は一致するように思うのですが。

高山:
多くはそうだと、私も推測しています。
竹内:

ということは、裁判官3人が仮に同じ意見だとすると、裁判員2人が賛成すれば裁判官の考えに決まるということですね。

高山:
そういうことですね。

竹内:
ということは、裁判員が参加するメリットというか、意味は何かあるんですか。

高山:
私はまったくないと、むしろ有害だと思っています。裁判官というのは、生涯の職業として裁判官の道を選んでいる人たちですから、6人の人たちを説得するのは簡単です。いわんや2人の人を説得するのは、なんの造作もないことでしょう。
竹内:

すると、これはいい言い方ではないと思いますが、裁判官が実質的には誘導して、2人の民間の裁判員を説得しちゃえば、それでOKということですよね。

高山:
そのとおりです。私は、その自信があるからこそ、最高裁は、裁判員たちに裁判所へ来てほしいと言えているのだと思っています。
竹内:

そういう意味でも「お飾り」という感じですかね。

高山:
私はそう思います。

竹内:
逆のパターンですが、裁判員4人と裁判官1人でも、評決されるんですよね。この場合は、プロの少数意見なのに議決されちゃうということですよね。

高山:
憲法学者や裁判官経験者の中には、「国民には、裁判官の裁判を受ける権利があると憲法が規定している。現行の裁判では、2人の裁判官が無罪を主張すれば無罪になる。しかし、裁判員裁判では、1人の裁判官と4人の裁判員が有罪と言えば有罪になる。被告人にすれば、素人が入ったことで有罪になる。そのために不利益を被るという点では憲法違反だ」と主張する人たちがいます。

竹内:
ちなみに、地方裁判所とか高等裁判所とか、いろいろあると思うのですが、裁判員が参加するのはどのレベルですか。

高山:
地方裁判所だけです。
竹内:

地方裁判所だけですか。

高山:
そうです。だから、地方裁判所の判断が市民の声を反映させて、被告人にとって好ましい判決が出たとする。納得できない検察官はおそらく控訴するだろう。控訴審の裁判は職業裁判官だけでやるから、市民の声を反映させたつもりが、その上に行ってひっくり返ることが当然あることになります。
竹内:

ということは、地方裁判所だけでこれをやっても、あまり意味がないように思うんですけど。

高山:
そうですね。職業裁判官の真似事、訓練にみんな従いなさいと。もし、そのみんなが手をつないで裁判官に抵抗する判断をしたときには、是正措置が講じられ、高裁でひっくり返り得るというのです。
竹内:

あまり、意味がないように思いますね。

高山:
そうですね。

竹内:
例えば、こういうふうに改善されるならばやっても良いんじゃないかという妥協案みたいなものはありますか。

高山:
私は、裁判員制度というのは、あれこれ手だてを講じれば使いものになるというものではないと思います。あまりにも問題が多いのです。
竹内:

例えばですが、アメリカで行われているように、有罪か無罪かだけを決めるとか、そういうのはどうでしょうか。

高山:
私は、市民だけでする裁判、陪審制の裁判であれば、かなり同調する気持ちはあります。しかし、今の状況は、先ほどから申し上げているとおり、プロと市民が一緒にやるということ、量刑の判断までもやらせるということ、そして被告人がこれを拒絶できないとか、裁判員の辞退が非常に厳しいとか、そういうがんじがらめの拘束があることによって、途方もないおかしい話になっていると思うのです。

竹内:
なるほど。全体をまとめたいのですが、今回の制度は、アメリカなどと大分違っていて
(はい)、量刑まで踏み込まなければいけないとか(はい)、かなり無理があると(えぇ)。それから、実質的にどうも裁判官が誘導する構造になっているので(はい)、市民の裁判員は「お飾り」になってしまうんじゃないかと。
高山:
そのとおりだと思います。
竹内:

そういういろんな問題があるということですね。

高山:
そう思います。

竹内:
分かりました。今日は高山さん、どうもありがとうございました。いや~、ちょっと、この制度について、僕は、中立を保とうと思ったんですが、あまりうまくいかない気がしてきました。
はい、ということで、今夜は、来年5月から始まる裁判員制度の問題点について、弁護士の高山俊吉さんにお話を伺いました。以上、「CUTTING EDGE」でした。

(了)

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