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司法試験改革は公平性を堅持せよ

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司法試験改革は公平性を堅持せよ【司法試験改革】

司法試験の改革をめぐり法曹と識者の間で長く論議が続けられてきたが、協議の期限を間近に控え法務省と最高裁判所が現行修習期間の大幅短縮を主張したことで、事態は重大な局面を迎えている。

志望の別を問わず、司法試験合格者が2年間法律実務を一緒に学習するのが現行の修習だ。4ヵ月の教室授業に続き、各地の裁判所、検察庁、弁護士会で裁判、検察、弁護の実務を合計16ヵ月勉強し、再び4ヵ月の教室授業を受ける。その上で卒業試験に合格すれば、各自の志望する道に進む。

法務省は最近、合格者を700人から1000人に増員することを提案し、これとセットに修習期間を1年か半年短縮させてほしいと弁護士会に求めてきた。最高裁も同様の考えだ。短縮の理由は表向き実務修習の受け入れ能力というが、本当は財政事情の問題とされている。修習受け入れの能力がないとしながら増員をいい、一方で、増員に伴う十数億円程度の予算増は大蔵省に要求しようとしないなど、法務省や最高裁の合格者増に向けた姿勢の不合理は際立つ。これでは多くの国民が、法務省や最高裁は修習受け入れの努力やわずかの出費を惜しみ、教育レベルの低下した法律家を大量に世に送り出そうとしていると受け取るだろう。

判、検事と弁護士を分離した戦前の司法試験制度は新憲法の下で全面的に改められ、今日まで40年以上も判、検、弁の統一試験と2年間の統一修習が揺るぎなく実施されてきた。期間短縮は分離修習への第1歩だと警戒する声もある。法曹三者が知恵を出し合って続けてきた修習方式を、議論もせず突然変更する合理的理由は何もない。

今回の司法試験改革論議は、検察任官者の激減に悩んだ検事総長が、「若い人が合格しやすいように受験回数の少ない人に点数のゲタをはかせたい」と発言したのがきっかけだった。これを受けた法務省は、「合格者700人を500人と200人に分け、200人は受験開始後3年以内の者から優先的に採用する」という短期受験者優遇の試験方式(「丙案」という)を提案した。この方式によると受験開始後4年以上の受験者なら501番が不合格になり、3年以内なら1700番台でも合格すると推定された。

日本弁護士連合会(日弁連)は「丙案」は公平・平等を欠く差別的な試験方式だと厳しく批判し、長期受験現象を解消するのならある程度合格者数を増やせば目的は十分果たせる、と主張した。しかし、法務省はそれだけでは若返りも任官者増もないといい、日弁連が強硬に反対すると法曹三者の統一試験や統一修習をやめることも示唆した。

法曹三者の合意により、1991年から合格者数はそれまでの約500人から毎年600-700人程度に増やされた。また、5年後に検証して短期間合格者の数が一定の比率(例えば、3年以内の合格者が全体の30%)に達していれば「丙案」は導入せず、同時にこれに代わる抜本的な改革構想を追求することになった。

さて、この5年間という歳月の間に状況は大きく変わった。法務省の予測は外れ、合格者数を増やした結果、合格者の年齢構成は年々若くなり、短期間合格者の比率も「丙案」導入回避ラインに数ポイントというところまで近づいた。一方検察官や裁判官に任官する修習生の数も大幅に増えた。今や「丙案」をあえて採用する必要性は失われたのだ。この間日弁連は、21世紀を展望した司法改革を推進し、同時に差別的試験方式の採用を回避する目的から、合格者数を700人から800人に増やそうと表明し、最近の会内の意見は1000人への増員に向かっている。

ところが法務省や最高裁は、増員が修習短縮を伴うのは当然だ、とか、弁護士会が期間短縮に同意しなければ「丙案」導入を断行する、などとほのめかし、「丙案」導入か修習期間短縮か、と二者択一を弁護士会に迫っている。その態度は、大蔵省に対し無用に及び腰で、弁護士に対し明らかに威嚇的だ。

「丙案」の導入も、修習期間の短縮も、司法に対する国民の期待を裏切り、法曹への国民の信頼を損なわせる歴史的な愚策である。姑息(こそく)な対処を排するよう法務省と最高裁にあらためて強く要望する。

(朝日新聞「論壇」 1995年10月16日)

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