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交通違反もみ消し事件の背景

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交通違反もみ消し事件の背景【道路交通法違反】

交通違反もみ消し事件の報道が続いている。その構造的要因については様々な分析がありうるが、背景には、違反取り締まりと交通安全の科学的関係が明確でなく、取り締まる側も取り締まられる側も、その有用性を信じていないという、見落としえぬ重要な論点がある。交通事件に長くかかわってきた体験を踏まえて述べたい。

交通違反とりわけ速度違反の捜査と処分の世界では、もみ消しはほとんど公然の秘密である。私自身、警察から直接ではないものの、違反をした時には早めにしかるべく連絡をとれば記録に載らないよう「処置」できると言われたことがあった。警察官や警察関係団体に属する者は、違反をしても記録から消されるという話はよく聞くし、もみ消し料の相場も耳にする。

果たして、新潟県警では警察官の処分逃れが常態化していたことが報道された。ことは決して新潟県警だけの問題ではない。全国津々浦々で「お世話」をした警察関係者と「お世話」を受けた警察官・民間人が、声を潜めて動きを見守っている。交通畑の長い現警察庁長官はこの問題をいったいどう考えているのだろう。

警察はかねて、速度を上げてもあまり危険でないため自然に速度が出るようなところや、ドライバーに隠れて測定できる場所などを取り締まり地点に選ぶ傾向があった。危険な運転かどうかより、捕まえやすいかどうかが取り締まり実施の基準となった。現場には検挙しさえすればよいという空気が蔓延し、交通取り締まりは恣意的だとの市民の批判が高まった。

すると、警察は取り締まり件数を一気に減らす。最高速度違反罪の検挙件数は、1985年の486万件から99年には半分近い280万件まで下がった。その間車両保有台数は32%、免許保有者数は40%も増えていることを考えると、検挙件数の減少ぶりがよく分かる。

しかし、批判が強まると取り締まり件数が減るという構図にも、取り締まりの不透明性がにじみでた。残ったのは、速度違反の処罰基準などあってなきがごときものという交通警察不信であった。取り締まりに納得できないドライバーは異議を申し立てる。理由は、測定にミスがある(電波の性質や隠れた測定のため生じることがある)とか、その速度で走っても道路交通に危険を生じさせていないというものが多い。
元法務大臣や現職の検事総長や法務省刑事局長までが形式的な取り締まりへの疑問を表明し、いまや弁護士が速度違反事件の被告人になって取り締まりの不当を主張する時代だが、それでも裁判では多く建前論で押し通される。不合理な取り締まりの是正はまさに焦眉の課題である。

違反自体に争いはなくても、免許の効力停止や取り消しなどの行政処分はドライバーにとって大きな不利益である。収入の基礎が奪われる職業ドライバーの場合にはとりわけ深刻だ。しかし正面から訴えても処分の結論はたいてい変わらず、変わってもわずかな軽減にとどまる。口利き料を払ってでも点数を消してしまう方が確実に効果的なのだ。そして、本音では違反必罰の意思を欠く警察は、もみ消しへの抵抗感のハードルがはなはだしく低い。少なからぬドライバーがもみ消しに期待をかける理由がここにある。

警察が政治家などの口利きにこたえるとき、取り締まりは交通安全確保のかぎだなどという建前論は消えうせ、利益供与は政治家や有力者などと「良好な関係」を維持するかぎになる。科学的合理性を欠く取り締まりは、交通安全に寄与しないだけでなく、市民生活にもっとも身近な交通警察活動の中に、政治家や有力者との癒着の温床を作り出しているのである。

われわれは口利き政治の受け手を買って出る警察にも厳しい監視と批判の目を向けねばならない。交通違反の取り締まりの目的はあくまで交通安全の確保にあり、それ以外のことにはない。正されるべき誤りは幾重にも存在する。

(朝日新聞「論壇」 2000年6月7日)

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