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「事件処理が暗礁に乗り上げ、克服の展望はまったくない」

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事件処理が暗礁に乗り上げ、克服の展望はまったくない【裁判員制度】

「順調」と書いて「破綻」と読む

最高検は、裁判員裁判の実施状況について、今年5月20日までの起訴人数は1664人・判決言い渡し人数は530人・無罪ゼロと発表し、裁判員公判部長は「おおむね順調」とこれを評した(5月21日各紙報道)。
冗談を言ってはいけない。何が順調か。判決言い渡し件数が起訴件数近くに達しなければ「順調な処理」とは言わない。言うまでもなく判決は公判審理を経て行われる。とりわけ裁判員裁判に必須の公判前整理手続きには時間もかかる。しかし、そういう事情を考慮しても制度実施から1年が経ったというのに、いまだに起訴事件の31.9%しか判決を言い渡せていないというのは完全に異常である。こういう時に使う言葉は「破綻の兆し」であり、「おおむね順調」などという用語ではない。

額面通りに聞く者はいない

しかし、竹崎最高裁長官は「大きな混乱なくよいスタート」と言い(5月2日)、朝日新聞は、「まずは順調な滑り出し」と喜び(5月19日社説)、社会面の記事に「社会に徐々に浸透」の見出しを打った(5月21日))。大敗しても大勝したと言い張る「大本営発表」の再来と鼻白んで受け止めた国民がさぞかし多かったことだろう。
「起訴人数1664人」という数にも注目しなければならない。制度設計段階には、大方の関係者が判決件数は年間2000件を上回ると想定していた。それが1600件台に激減した。起訴件数が予想外に低くなったにもかかわらず、その3分の1も処理できないところに事態の深刻さが表れている。

ごまかしのきかない現場の空気

飛び抜けて事件数が多い千葉地裁、大阪地裁本庁、東京地裁本庁の窮状は言うまでもない。特に実施態勢の弱い千葉と大阪は悲惨である。全国紙にいっせいに最高裁・法務省・日弁連の全面広告「みなさまのご協力により、裁判員制度は順調に運用されています」が載った今年3月13日、大阪地裁の裁判官が同地の弁護士たちに、「当地裁の場合、順調に運用されているとは決して言えません」と吐露したと伝えられている。
その他の裁判所も厳しい限りだ。名古屋地裁は、本庁で22.7%、岡崎支部で20.8%しか判決が言い渡せていない(読売5月21日)。 福島地裁本庁は、今年5月6日までに処理されたのはたった1件、あとは公判日程も決まっていない。同地裁郡山支部は、22件中12件が公判審理に入れず、日程が決まっているのはそのうちわずか2件というぐあいである(福島地検ホームページ)。
竹崎長官は、迅速審理の大号令をかけている。しかし、どういう促進策が現実にあり得るか。裁判員裁判にかかりきりの現場からは、「これ以上どうしろと言うのだ」という反論が起こっている。せめて公判前整理をきちんとやりたいという弁護士たちからも悲鳴が聞こえてくる。

日弁連会長の虚ろな言

宇都宮日弁連会長は、弁護技術向上の努力をすると述べた(5月21日毎日)。しかし、問題は技術向上の遅れでは断じてない。そこまで言うのなら、言わせていただく。日弁連で裁判員裁判推進の先頭に立つ御仁たち(それも名前が挙げられるくらい極少なのだが)に、「模範的な弁護活動」なるものを現実の裁判員裁判の場で実演してもらおう。そしてせいぜい無罪をとってもらおう。わずか数日間、ケースによっては実に数時間の審理でも、被告人の弁護はやりきれるということを身をもって示していただこう。
できもしないことをできるように言うのは、大本営発表の一翼を進んで担うことを意味するのだ、宇都宮さん。

(裁判員制度はいらない!全国情報 第8号)

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