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「音を立てて崩れ落ちる氷山」

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音を立てて崩れ落ちる氷山【裁判員制度】

裁判員裁判は、目的・狙いが次第に知られ、候補者の出頭拒否の急増で破たんの様相を濃くしているが、裁判の処理自体も深刻な事態に陥っている。マスコミが報道しない「事件処理の麻痺状態」に焦点を当てる。
裁判員制度実施前は裁判員裁判の対象となる重大刑事事件は、従来はおおむね次のように処理されていた。例えば6年前の2004 年は、公判開廷回数は平均5 回(自白事件の公判開廷回数は平均4回、否認事件は平均10 回)だった。連日開廷方式は基本的にとられて
いなかったから、審理期間は多く数ヶ月におよんだが(公判前整理手続きを取り入れたのは翌2005年)、それでも年間3,308 件の判決を言い渡していた。公判開廷日を年250 日とすれば、毎日全国の地裁で計13 件強の判決が言い渡されていたことになる。

裁判員裁判が始まったら

裁判員裁判が始まった昨年8月から年末まで5ヶ月間の状況を見る。重大事件の発生件数がこのところ激減し、裁判員裁判は年2,000 件程度の水準で推移すると推定されている。年2,000 件なら5 ヶ月間で833 件である。しかし、年末までに判決にたどりつけたのはたった138 件(月平均28件)だった。制度施行前の起訴事件の判決件数がここにカウントされていないことを考慮しても、その少なさは想定をはるかに越える。今年7月までに年間件数2,000 件から138 件を引いた1,862件(月266件)の判決を言い渡さなければならない。
しかし、月266 件というのは昨年の9.5 倍というハイペースである。そのような事務処理はおよそ現実性がない。
情状事件中心に始めた簡易・簡略裁判員裁判でも年内にこれしか処理できなかった。最高裁や法務省にとって現下の事態は言葉にできないほど深刻である。これから多く登場する無罪を争う事件(年平均700 件前後)や死刑求刑事件(年平均20件前後)が、滞留事件の処理に追われる現場の裁判官を襲う。いったいどう凌げと言うのか。また、実際、凌げるのか。

メルトダウン?

裁判所や検察庁は、無謀極まる促進策を実施しようとしている。滞留事件の多い裁判所では、公判前整理手続きをさらに空洞化・形式化させて「進行協議」方式を事実上の原則にし、公判前整理手続きを進行協議の終わりに1 回だけ開く方式まで提起されている(そうなれば、被告人は出頭できず、執務時間外開催もあり得、手続き調書は
作成されない)。今年1 月、最高検は、「核心捜査」を強調し、公判前整理手続きの早期終結を徹底する検事会同を開いた。
しかし、それらの「促進策」は事件の破滅的滞留を少しも解消しない。審理をいくらか先延ばししたところで、新たな事件が次々と発生するからそれにも限界がある。何と言っても滞留事件数が多すぎるのだ。

打開策はない

「プロが効率的な事前整理を行い、数日間の素人参加で年間2,000 件程度の判決を言い渡す」計画は、開始半年で内部からも完全に破たんした。
現場の裁判官や裁判所職員は、整理手続き、進行協議、選任手続き、庶務・雑務に追いまくられている。裁判員裁判の専属の裁判官がいるわけではないから、一般刑事事件の処理遅滞も甚だしく、疲労は刑事部全体を覆っている。
「インスタント判決」と「権力司法思想の市民注入」の同時追求という無謀なもくろみは、内外の異論・反論と現実の矛盾に包囲され、今や氷山が崩壊するように私たちの眼前で音を立てて崩れようとしている。

(裁判員制度はいらない!全国情報 第5号)

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