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破滅的弁護士増と今こそ対決の時だ

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破滅的弁護士増と今こそ対決の時だ 【弁護士激増政策】

■激増の狙いは弁護士変質

若い弁護士たちが自ら命を絶ったとの知らせにいくつも接した。事情はまちまちだろうが、将来に胸ふくらませた時期もあったであろう青年たちの自死の報に胸が痛む。

「先輩たちには私たちの不安がどうしても分かってもらえない」。この間、各地で若い諸君たちの声を聞き、将来への希望がかくもかそけく、不安がかくも深いのかと改めて衝撃を受けた。就職できない弁護士や「軒を借りる」だけの弁護士(ノキ弁)が生まれ、多くの青年弁護士にとって国選や当番の収入は自身の売上げの大きな一角を占めるに至っている。東京では国選事件の割り当てを待つ弁護士が窓口に並ぶ光景が珍しくなくなった。

新人会員の研修指導に当たる講師の弁護士が、競争相手をどうして指導しなければならないのかと漏らしたとも聞いた。とにかく忙し過ぎる。弁護士生存競争の最前線には、かつてない緊張状況が生まれ、窮乏化に向かう兆しがうかがえる。

来年度の合格者合計2600人の8割以上が弁護士になるだろう(判検合わせて500人になるとは考えられない)。弁護士2000人としても、昨秋実績(約960人)の2倍以上である。早期に年3000人合格を実現し、年9000人を目指すというのが、村上ファンドの黒幕、宮内義彦オリックス会長率いる「規制改革・民間開放推進会議」の目標である。

いかがわしい宮内路線は今や各方面から厳しく指弾されているが、この目標は依然として、いささかも修正されていない。激増要求が大量求人申し入れを意味しなかったことは、財界の中心企業が自らほとんど社員弁護士を採用しなかったことで明らかになった。激増の本当の狙いは何だったのか。

それは、「食うに困る弁護士を大量に作り出すこと」以外にない。この国の弁護士を人権擁護から少しでも遠ざけ、可能な限り権力・金力の周りをうろうろさせる商売人に変貌させることだ。戦前の弁護士大増員政策が正にそれであった。そして、そのもくろみは的中した。破綻と荒廃の嵐が吹き、1929年には背任・横領・詐欺などで20人の弁護士が逮捕されている。現在の弁護士数に引き直せば約70人、毎週1人が逮捕される勘定だ。貧して鈍したこの国の弁護士たちは、「満州国の司法官は弁護士にやらせろ」と要求し、ついに侵略戦争の先頭にも立った。弁護士は命をかけて戦争に反対もすれば、ときに進んで戦争屋の提灯も持つ。

「柳の下のどじょう2匹」。法の支配とか大きな司法などともっともらしい言葉をもてあそぶ欺瞞(ぎまん)の士もいる。いつか来た道、いつか見た弁護士である。労働事件を多く手掛ける東京の大手事務所の事務所便りは、弁護士人増員時代の大衆運動と弁護士のかかわりについて、「費用をきちんと支払う」関係への移行を訴えている。弁護士が増えると無償では人権を守れなくなる。どう弁明しようとも、そこにあるのは人権擁護から距離を置き始めた弁護士の姿だ。激増政策の狙いと効果を絵に描いたような風景がわれわれの眼前に現れている。まだ1200人だというのに!。

■「就職先」豊富のまやかし

2001年秋。「国会議員の政策秘書」「行政機関」「渉外法務」「企業法務」「裁判官」「検察官」「司法支援センター」「過疎地」……。激増を唯々諾々と引き受けた日弁連執行部は、いろいろな「就職先」を並べて見せた。しかし、この5年間の登録弁護士約4500人のうち、これらの仕事に就いた者はいったい何人いるか。2000年以前より、どれだけ増えたか。本当にニーズがあるのなら、水が低きに流れるように就職情勢はとうに変わっている。「そんな仕事をしたくて司法試験を受けたのじゃない」「わざわざ弁護士に来てもらうことはない」。思いつきのあざとい議論は、多くの会員に耐え難い心労と将来への不安を累積させただけではないか。

その中で、唯一求人の手が高く挙がったのが「司法支援センター」である。ところがどうだ。「これほどの不振は日弁連にとっても予想以上」。司法支援センターのスタッフを希望する弁護士が計画の2割台しか集まらず、「制度の運営に影響しかねない」状況にあると大きく報道された(8月15日朝日新聞)。激増をスタッフ弁護士増につなぐという「会員愚弄の甘いもくろみ」は完全に外れたのである。その先の生活が不安だからやれたものではないという思いと、いくら生活不安でも魂までは売らないという心意気と。激増をバネに国策弁護士を作る構想は、まともな発足の見通しも立っていない。

■合格3000人根本的見直しを

激増方針決定から5年経っても見るべき動きがなく、展望もないという厳たる事実によって、結論は既に明確だ。日弁連執行部は、「弁護士業務総合推進センター」の発足など、パフォーマンスに躍起だが、「激増に翼賛して5年遅れの対策とは」と会員の反応は至って冷ややかである。

3000人増員方針を根本から見直さなければいけない。ことは弁護士の数の問題だ。その重大性について、だれよりも物が言え、だれをおいても物言う責任を負うのは当事者である弁護士ではないか。

ロースクール制度は、3000人増員決議の際にすべての討議をネグって採決が断行された歴史的な「謀略の産物」だ。無理を犯した結果がもう出て、制度は早くも破綻の様相を見せている。昨春の新入時期には定員割れスクールが続出した。今年9月の司法試験合格者は今春のロースクール卒業生の約5割にとどまり、来年以降の合格率はさらに低下し、司法審意見書が約束した「7~8割」の合格率は完全に履行不能に陥る。今秋以降、ロースクールの生き残りをかけて展開される合格者大幅増員要求運動をてこに、政府は3000人合格の前倒しとさらなる大増員を画策している。破滅への歩みを早めさせるのか、少しでも正常に復させるのか。

「合格者増を人権擁護につなげるためとりあえず増員に賛成し、必要な対策は後から検討しよう」。真摯にそう考えて増員に与した日弁運会員に訴える。人権擁護を直撃することが今や明らかになった弁護士激増政策をやめさせ、3000人合格の見直しと法曹濫造装置ロースクール制度を廃止させるために今こそ立ち上がろうではないか。弁護士と弁護士会を憲法と人権擁護の砦として守り抜くために。

(文藝春秋 2005年2月号)

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